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「両面宿儺遥拝所」に安置されている宿儺像=岐阜県高山市
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 週刊少年ジャンプ(集英社)で連載された芥見下々(あくたみげげ)さんによる漫画「呪術廻戦」の最終巻が発売された。主人公・虎杖悠仁たちの最大の敵だった宿儺(すくな)は並み居る術師たちを退け、まさに「呪いの王」にふさわしい強さを見せつけた。

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 4本の手と二つの顔を持つ特徴的な風貌(ふうぼう)のキャラクターのモチーフとなったとみられるのが、岐阜県の飛驒地方を中心に伝承が残る異形の人物としての「両面宿儺」だ。

 日本書紀には「一つの胴体に二つの顔があった。顔は互いに反対を向いていた。それぞれに手足があった。力は強く敏捷(びんしょう)であった」(小学館「新編日本古典文学全集 日本書紀②」より抜粋)とあり、朝廷に服従せず、人民を略奪して楽しんでいたため、討伐されたという。

 キャラクター作りの際、こうした日本書紀の記述も参考にしたと芥見さんはジャンプ誌上で語っている。

 国際日本文化研究センターの小松和彦名誉教授(民俗学)によると、日本には、ファンタジー(空想)などに親和性の高い「怪異」の素材が豊富にあるという。その背景には、様々な事象に神聖な要素を見いだすアニミズムの思想が人々に浸透していることに加え、山間部が多い地理的状況があると指摘する。

 「平野部では文化の平準化が進みやすいが、日本は山間部が多く、地域ごとの個性が出やすいため、多様な怪異の伝承が生まれた。山を越えれば別の神様を拝んでいる、というような状況がそこら中にある」という。

イメージの「呪い」 打ち破るのは想像力

 そうした怪異が漫画などの物語に組み込まれ、キャラクター化されることは、その怪異を「標本化」することだ、と小松名誉教授は語る。

 「イメージが付与されると、人々に記憶され、いったん固定化される。その姿は別のイメージで更新されるまで、いわば『呪い』のように人々をとらえる」

 一度、固定化されたイメージが刷新され、再構築されていく過程に文化のダイナミズムがある、といい、「例えば漫画『鬼滅の刃』では鬼に西洋的な吸血鬼のイメージを組み込むことで新しい鬼の姿を描き出した」と指摘する。

 そうした新しい物語を生み出すものは知識を下敷きにした想像力だという。

 「才能あるクリエーターが日本に残る怪異の素材を発掘し、想像を巡らし、創作を行うことで、怪異が物語の世界に復活する。国内外の多くの人が楽しむ漫画やアニメは、怪異を育んだ日本の文化に改めて目を向けるきっかけにもなり得る」

 コミックスの累計発行部数が1億部(デジタル版を含む)を超える人気漫画によって付与された宿儺のイメージ。そんな特級の「呪い」を打ち破る新たな物語とはなにか、最終巻を手に想像してみてもよいかもしれない。

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